技術レポート

溶射皮膜の密着強度に与える基材表面粗さと温度の影響

Influence of Substrate Surface Roughness and Temperature on Adhesive Strength of
Thermal Sprayed Deposits
プラズマ技研工業(株) ○深沼博隆、大野直行
Hirotaka Fukanuma, Naoyuki Ohno (Plasma Giken Co. Ltd.)

1. 緒言

溶射皮膜の基材に対する結合力の大部分はアンカー効果によるものと言われ、他に結合に寄与するものとしては化学的あるいは物理的な結合が皮膜・基材界面に生じているとされている1)。実際は、溶射の工業的な利用の場においては皮膜の密着力を確保するために通常ブラストによる基材の粗面化がおこなわれた後溶射コーティングがなされている。基材粗さが溶射皮膜の密着力におおきな影響を与えることは良く知られていることではあるが、その粗面がどの様な理由で溶射皮膜の密着力に影響を与えるかは未だ良く理解されていない。アンカー効果、インターロッキング効果で定性的に密着力が説明されてきているが、その効果のメカニズムについての説明は明快ではない。これまで溶射皮膜の密着と言う観点からの粗面それ自体の研究がほとんどおこなわれてこなかった。まして面粗さと密着力を定量的に記述することはこれまで試みられなかった。本研究は、基材・皮膜間の密着力は第一義的にはその界面に働く摩擦力に起因すると言う仮定を置き、基材・被膜界面の摩擦力を定量的に計算出来るような面粗さ指標を考案した。この仮定に基づき面粗さと密着力を定量的に記述できるモデルを提案し密着機構を明らかにしようとするものである。

基材温度が溶射皮膜の密着力に影響を与えることは広く知られている。表面粗さと基材温度の影響を調べて基材温度と粗さはそれぞれ独立の要因と見なせるのかあるいは何らかの相互作用があるのかまた、どちらの要因が密着に強く作用しているのか実験をおこない調べた。

2. 密着力モデルのアイディア

理想的な粗面として図-1に示すような小さなピラミッドが平面上に整列された面を考えてみよう。
ピラミッドの底面の一辺の長さをa、底面から頂点迄の高さをhとすればピラミッドの一つの斜面の面積sは

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で表される。この面に溶射被膜が接し圧力Pが界面に作用しその摩擦係数をμとすれば斜面にそって摩擦力に逆らって溶射被膜を引き上げるのに必要な力 f は f = μPsである。斜面に沿ってではなく基材に垂直方向に引き上げるための力は斜面と垂線の角度を!とすれば

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となる。ちなみに

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である。一つのピラミッドには斜面が4面あるからピラミッド一個当たり被膜を引き剥がす力は4fp= 2μPahとなる。このときのピラミッドの底面積はa2であるから、図のようにピラミッドが隙間無く基材平面を覆っているとすれば、単位面積当たりの被膜を剥がす力Fは

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となる。この結果は摩擦係数および圧力が一定であるものとすれば、ピラミッドの高さhが高く底面の辺aが小さいほど密着力が強いことを示している。この事は粗面の高低が大きくかつ単位面積当たりに多くの斜面が存在しその斜面が急峻であればあるほど密着力が強いことを意味しており、直感的にもこのような粗面が望ましいことは理解できる。この考えは容易にブラスト面などの一般的な粗面に適用出来るようにモデルの普遍化することは容易にである2)。

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3. 実験方法および結果

φ20mm のアルミの棒の端面に#100のアランダムブラスト材でそれぞれ2,5,10,20パスブラスト処理した後、ホワイトアルミナを 500μm プラズマ溶射でコーティングした。ブラスト後の試験片はレーザー顕微鏡で表面形状の3次元測定をおこなった。また基材の温度はそれぞれ室温および100、200、300℃に余熱をおこなった。ブラスト面の射影面積を求め、密着力と強い相関が認められる新たな粗さ指標Rbsを求めた2)。

ブラスト回数と粗さ指標 Rbsの関係を図-2に示す。このグラフからブラスト回数の増加と共に粗さRbsが増加するのが認められる。粗さRbsと溶射皮膜の密着強度の関係を図-3に示す。グラフから面祖度 Rbsの増加と共に密着強度が上がって行くことが示される。ただし、基材温度 300℃の時の破断面は皮膜内部であった。200℃の余熱の場合も面粗さが約2.8および3.0強のところの破断は同様に皮膜内で生じた。他の試験片は全て基材・皮膜界面で破壊が生じている。アルミ基材に関しては余熱温度が密着強度に著しく影響する事をこのグラフは示している。

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4. 考察

皮膜と基材間の密着強度は一次近似として摩擦力に起因すると言う仮説は図-3の結果からほぼ正しいものと思われる。基材温度が高くなると密着力上がるのはスプラットが基材に良く濡れるようになり、その結果スプラットと基材界面の接触面積が広くなり、その結果として両者間の摩擦力が増大したものと思われる。このことが基材の温度が高くなると結合強度が上がる原因と思われる。

5. 結論

面粗さ指標Rbs密着強度との強い関係があることが示された。また、基材温度が密着強度に強く影響を与えることも明らかにされた。

6. 参考文献

1. Matejka D. and Benko B.: Plasma Spraying of Metallic and Ceramic Materials. Published by John Wiley and Sons Ltd. 1989, pp. 91/95.
2. H. Fukanuma, R. Xie, N. Ohno, Y. Fujiwara and S. Kuroda, Characterization of Roughened Substrate Surface on Bond Strength of Thermal Spray Deposits, 2002’sITSC, PP. 312