技術レポート

傾斜溶射のスプラット扁平現象

プラズマ技研工業株式会社 ○深沼 博隆

1. 緒言

加熱・加速された溶射粒子が基材に衝突した後、偏平・凝固する過程は溶射皮膜の特性を決める重要なプロセスである。近年、溶射粒子の衝突・偏平現象は様々な研究がなされ、衝突条件および基材の状態とスプラットの形態、スプラット/スプラット界面およびスプラット/基材界面の構造との関係については解明されつつある。特に、基材に粒子が直角に衝突するケースについてのスプラットの形態に関する研究は多くの研究者によって精力的に行われているが、基材と傾斜した角度で粒子が衝突する場合のスプラット偏平に関する現象は全く未解明である。通常、基材に対して溶射粒子が直角に衝突するように溶射が行われるが、基材の形状が複雑な場合全ての溶射面に直角で溶射することが不可能なケース、あるいは内径の小さな円筒内面に溶射をする場合、制限された空間の中で一定の溶射距離をとるためにやむを得ず溶射面に対してある角度を取らなければケース等が現実に生じる。溶射角度と溶射被膜の特性の関係に関する基本的な知見を得るために、溶射角度とスプラットの形態との関係を幾つかの仮定を置いて数学的に解く試みを行った。

2. 理論

図-1に示すように、直径doの溶射粒子が速度νoで基材と角度φで衝突するものとする。この時衝突速度の基材に対する垂直成分および水平成分はそれぞれνosinφ、νocosφである。従って、粒子は初速νosinφで基材の方向に移動を始める、それと同時に水平方向に初速νocosφで進行を始める。衝突点から一定の厚みhで基材に平行に噴出する。この平行流の上の粒子の形状は球状のままでその形を偏平過程の間変えないものと仮定する。垂直方向に進行するとき粒子は基材からの反作用を受けるから初速の速度のままに進むことが出来ず、時間と共にその速度は減速されるであろう。この減速を表すために一つのパラメーターαを導入して粒子の速度をνosinφ・exp(-αt)とする。ここでαは正の数である。exp(-αt)は時間tと共に急激に減少する関数である。一方、粒子が水平に進行する時は垂直に移動するときよりは抵抗が少ないから速度の減速の程度は少ないものと仮定する。もう一つのパラメーターnを導入して、水平方向の速度をνocosφ・exp(-nαt)と仮定する。この時nは0<n≤1である。すなわち、α≥nαであるからexp(-αt)≤exp(-nαt)となり垂直速度の減速は水平速度の減速より大きい。このことは、粒子が垂直に進む距離より水平に進む距離が大きくなるからスプラットが長細くなることを表している。基材に平行に広がっていくスプラットの形状を楕円と仮定し、スプラットの流れ場の仮定等を加え計算するとスプラットの長径aと短径bの比率a/b”Elongation Ratio”ERは次の式で示される。

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3. 実験方法および結果

6種類の溶射材料について溶射角度を15度ごとに変えて垂直から15度まで6段階の角度について溶射を行い、それぞれのスプラットの長径と短径の比を取った。3種類の金属材料ニッケル、銅、アルミニュウムおよび3種類の酸化物ジルコニア、アルミナジルコニア、アルミナジルコニアを溶射材料として選択した。図-2にさまざまな角度で溶射された銅のスプラットの写真を示す。溶射角度が基材に対して寝てくるほどスプラットが細長くなることが写真から明らかに示される。

理論と6種類の溶射材料のについての実験結果を金属については図-3に、酸化物については図-4にプロットしたグラフを示す。金属についてはパラメータn=0.4の理論曲線と実験値は溶射角度90~30°の範囲で良い一致を示している。15°の実験値は理論より全て小さい値を示している。一方、酸化物は材料毎にパラメータnが0.3~0.4の間でばらつくように見える。酸化物の場合も角度が30°より寝てくると理論より実験値が小さくなっている。特に15°ではその乖離が大きくなっている。

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