技術レポート

ブラストによる基材表面粗さの密着力への影響

The measurement of particle temperature and velocity sprayed by HFPD
プラズマ技研工業株式会社 O 孫 波,深沼 博隆
Bo Sun, Hirotaka Fukanuma (Plasma Giken Co., Ltd.)

1. 緒言

溶射技術は現在さまざまな分野に利用されているが,基材と皮膜との密着力が弱いなどの原因で溶射皮膜の剥離が起こり問題となることがある。剥離した場合,当然ユーザーの求めるものではなくなる。溶射技術の進歩および溶射産業の発展において剥離問題を解明することは必要不可欠である。剥離の解明にあたってなぜ溶射皮膜は密着するのか,溶射皮膜はどのように破壊するのか,このような疑問を解明することができれば剥離問題を解決する事ができる。破壊の原因には,表面粗さ,溶射皮膜の気孔などさまざまな要因が複雑に関係し密着力に影響していると考えられる。そして我々は,その中から表面粗さに着目し,表面粗さが密着力にどのような影響を及ぼしているのか調査するため研究を行った。ブラストにより前処理し,粗さに差がつくように4種類のブラスト材を使用した。さらに,基材の材質により表面粗さが変化するため2種類の材質を使用した。この8種類の表面粗さが密着力にどのように影響しているか実験を行ったのでその結果を報告する。

2. 実験方法

基材SUS304とAl5056のφ25の試験片に,自動ブラスト機によりブラスト材 A#36,A#60,A#100,A#220の4種類をブラストした。粗さの定義は,基材面に働く圧力,基材面と皮膜との摩擦係数などを考慮し密着力と比例関係にあると考えられ,ブラスト面の射影面積の総和を底面積で除した値であるRbsを使用した。図1にブラスト条件を示す。コンフォーカル顕微鏡(レーザーテック(株)製HD100D)によりRbsを測定しブラスト面の評価を行った。その後に,目標膜厚 300μm で溶射材料ホワイトアルミナ(PC-WA #F サンゴバンマテリアル製)を使用しプラズマ溶射を行い,引っ張り試験を行った。引っ張り試験は,1条件につき7本行った。 以下SUS#36のように条件を基材と粒度で示す事とする。

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3. 実験結果と考察

図 1 に Rbs と密着力の関係を示す。図 1 から基材SUSにおいては,粒度の粗いブラスト材程,密着力は弱くなった。これは,ブラストが不十分だったのではないかと考えられる。つまり,すべての条件で吐出量1000[g/min]×2パスで行なったため粒度の粗い程,基材に衝突するブラスト材の個数が少なくなり,その事が密着力に影響したと考えられる。一方基材Alにおいては,#60 が最も密着力が大きく#36 で最も小さくなった。#36 は SUS 同様ブラスト不十分のため小さくなったと考えられる。基材 SUS と Al では,SUSの方が密着力は大きくなった。密着力は基材の材質にも影響を受ける事がわかった。

図3にSUS#60とSUS#220の破断断面写真を示す。図3から,SUS#60はブラスト面と皮膜の間で破断しており,ところどころ,特に凹の部分に多く皮膜が残っていた。SUS#36とSUS#100も同様であった。SUS#220は,破断したブラスト面にうっすらと皮膜が広い範囲で残っているため,皮膜の中で破断していると考えられる。まず,凹の部分に皮膜が残っていたことから,凹の密着力はブラストのかからなかった平らな部分よりも大きいといえる。さらにSUS#220は,皮膜がうっすらと残っている事から,ブラスト面と皮膜の密着力ではなく皮膜強度ではないかと考えられる。つまり,図2で得られた結果よりも,SUS#220での密着力は大きいと予想できる。これらの事から,仮にすべての条件において十分にブラストされた状態で引っ張り試験を行ったとしたら,一般的には粗い方が密着力は大きいと考えると,粒度が違っても皮膜強度である今回のSUS#220と同じぐらいの密着力になるのではないかと予想できる。これは,今後研究を進めていく上で確かめていきたい。

図4にAl#60とAl#220の破断断面写真を示す。図3と図4から基材SUSとAlではAlの方が,凹凸が大きいことがわかる。これは,Alは SUS に比べ硬度が低いため,ブラストのかかりが良かったと考えられる。Alでは,凹部分に皮膜が残っているのを除いては,すべての条件でブラスト面と皮膜で破断していた。Al はSUSよりも密着強度が弱く,皮膜強度の方が大きいと考えられる。凹部分に皮膜が残っているが,これは SUS 同様凹部分の密着力が強いと考えられる。

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4. 結論

基材 SUS では,ブラスト材の粒度の細かい程密着力は大きくなった。これは,粗いブラスト材では衝突する粒子数が細かいブラスト材に比べて少なかったためと考えられる。基材Alでは,密着力は#60で1番大きくなり,#36 が最も小さくなった。#36 はブラストのかかりが十分でなかったのが影響したと考えられる。密着力はSUSとAlではSUSの方が大きかった。これは,密着力が基材の材質にも影響すると考えられる。SUS#220 では皮膜内で破断しており,皮膜強度よりブラスト面と皮膜との密着力の方が小さくなったため,密着力が測定できなかったと考えられる。ブラストによってできた凹部分の密着力は,ブラストがかかっていない平らな部分より大きい。