技術レポート

スプラット冷却速度の研究

プラズマ技研工業株式会社 ○深沼 博隆

1.緒言

溶融した溶射粒子は基材に高速で衝突した後編平過程を通じディスク状のスプラットを形成する。

このスプラットは基材に拘束され基材に熱を奪われ急速に温度が降下する。スプラットの温度降下速度が非常に速いため実験的にも測定が容易ではない。篠田等はプラズマ溶射法によりYSZ粒子を石英基材に衝突させ5~40μsのスプラット冷却時間を実験により得ている1)スプラットの冷却メカニズムを明らかにすることは溶射皮膜の特性を理解する上でも必要である。スプラットの温度降下の機構を明らかにするために幾つかの仮定の下数学的モデルを考えてみた。

2.スプラットの温度降下モデルおよび計算結果

図-1に示すようなプラズマ溶射法でスプラットを形成した場合を考える。プラズマジェット、スプラット、基材および周囲の気体を含めた系を考えてみよう。まず、プラズマジェットからスプラットおよび基材は輻射熱を受ける。この時スプラットから放射されるエネルギーも考慮する必要がある。基材の温度はジェットの温度に比べるとかなり低いので自身が放射するエネルギーはプラズマジェットから受ける輻射エネルギーに比べれば無視できる。さらにプラズマジェットが熱風となってスプラットおよび基材表面に吹き付けているのでスプラットおよび基材はその熱影響を考慮しなければならない。スプラットは基材より高温であるから基材へ熱流速が生じる。基材周辺の空気は基材から熱を奪う。このようにスプラットの温度降下を解析するとき系全体はかなり複雑なことが解る。

スプラットが形成された時を時刻t=0とし、スプラットの温度をDp、直径をDs、厚みをhsとする。スプラットの熱伝導率をλp、密度をρs、熱容量をcpとし、同様に基材の熱伝導率をλs、密度をρs、熱容量をcsとする。スプラットおよび基材の熱伝導率、密度および熱容量は温度に依存しないものとし、かつ、軸対称性を考慮すれば熱伝導方程式は円筒座標系で次のように書ける。

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1式および2式はそれぞれスプラットおよび基材の温度を表している。

2次元の熱伝導方程式を解く前にスプラットの厚みに比べてスプラットの直径は100倍くらい大きいからスプラット中心の近傍のみを考えたとき半径rに依存しないと仮定できるであろう。そうすると1式および2式は次のようにより単純な式に書き換えられる。

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初期条件はt=0の時、スプラットの温度はTpo、基材の温度はTsoである。境界条件については計算を容易にするためにスプラット表面から熱の出入りのない断熱条件をとりあえず選択する。スプラットと基材の界面ではスプラットから流出する熱量と基材に流入する熱量は等しいから

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となる。これらの式と初期条件および境界条件を用いて差分法2,3)を用いて計算を行った。計算に用いた初期条件および物質の計算に必要な性質を表-1に示す。

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計算結果を図-2、図-3および図-4に示す。図-2は時刻0から20μ秒迄の時間の経過と共にスプラット内の温度分布の変化を示している。0.08μ秒迄はスプラット内および基材表面近傍の温度勾配が大きいことが示されている。その後0.6μ秒迄はスプラット内の温度勾配は緩やかになが基材表面近傍の温度勾配は依然と大きい。図-3はスプラット表面温度を時間の経過と共に降下していくことを示している。1~2μ秒迄に初期温度の20~25%までに急激に降下していることが示されている。その後温度は緩やかに下がって行くことが解る。スプラット表面温度が初期温度の10%に達するのは12μ秒であることを図-3の点線の交点が示している。図-4は図-3の時間軸を拡大して初期のスプラット温度の変化を示しているものでスプラットの溶融潜熱がスプラットの温度降下にほとんど影響しないことが示されている。せいぜい0.02μ秒ほど降下速度を遅らせている程度であるので全体の降下時間10μ秒に比べれば無視できる。

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3.考察

比較的単純なモデルでの計算であるがスプラットのクーリング時間がFe上のMoの場合おおよそ10μ秒程度であることが示された。プラズマジェットからの輻射伝熱、高温ジェットからの対流伝熱ならびにスプラット基材間の接触が不完全でありその界面の隙間に気体が存在することを考慮するとこれら全ての因子はスプラットの温度降下を遅らせる効果があるのでクーリング時間が延びることが予測される。今後、これらのファクターを考慮した研究を進めてより精度の高いモデル構築する予定である。特にスプラット・基材界面のギャップの熱抵抗を解析し、それをモデルに反映させたい。

参考文献

1. 篠田 健太郎、村上 秀之、黒田 聖治、日本溶射協会第84回全国講演大会論文集、P1~2
2. 斉藤 武雄、「数値伝熱学」、1986年 養賢堂
3. 山崎 郭慈、「偏微分方程式の数値解法入門」第1版第4刷、2005年 森北出版