アンダーコート表面粗さがトップコートの密着力へ与える影響
The Influence of Undercoat Roughness on Topcoat Adhesion
プラズマ技研工業(株) ○池田 光雄, 大野 直行, 深沼 博隆
Ikeda Mitsuo, Ohno Naoyuki, Fukanuma Hirotaka (PLASMA GIKEN CO.,LTD.)
1. 緒言
溶射加工において溶射皮膜の密着力は重要な特性であり,密着力のメカニズムを知ることは溶射を行う上で有益である.この密着力は溶射する面の状態に関係していると考えられている.今回アンダーコートとその上のトップコートの密着力がアンダーコートの表面粗さとどのように関係しているのか解明するために実験を行った.
2. 実験方法
直径 25mm 材質 Al5056 の試験片にアンダーコート材として直径 16~44μm(Carpenter Micro-Melt 316L)と 22~53μm(Anval 316L)の 2 種類の SUS316L を厚さ 100μm 程プラズマ溶射し,コンフォーカル顕微鏡によりアンダーコートの面粗さ Rbs を計測した.Rbsとは面粗さを表す無次元量であり簡単に説明すると図 1 のような底面の長さ a 高さ h のピラミッドが規則正しく整列している仮想的な三次元モデルを考えたとき,C-C面で切断したピラミッド1つの断面積はah/2 であり,ピラミッドには斜面が 4 面あることより断面積の総和は 2ah となり,これをピラミッド1つの底面積 a2で除したものが Rbsである1).アンダーコート上にはトップコート材としてホワイトアルミナ(Saint-Gobain PC-WA #/F)を厚さ 300μm 程プラズマ溶射した.アンダーコートおよびトップコートの溶射条件をそれぞれ表 1,2 に示す.トップコート溶射後,溶射した試験片と同じ寸法の試験片をトップコート面に接着剤で接着し,この接着した試験片を引張り試験機で引っ張り,破断したときの引張り荷重を計測した. 引張り試験は各条件につき 7 本行った.
表1 アンダーコート溶射条件
ガン:Praxair SG-100 | 溶射材料:SUS316L |
40kW Subsonic | |
16-44μm 22-53μm | |
電流 [A] | 750 |
電圧 [V] | 48 |
ガス流量[l/min]アルゴン | 50 |
ヘリウム | 12 |
キャリア | 6.7 |
溶射距離 [mm] | 100 |
材料吐出量 [g/min] | 36.5 35 |
予熱温度 [℃] | 94 92 |
表2 トップコート溶射条件
ガン:Praxair SG-100 | 溶射材料 WA |
40kW Subsonic | |
電流 [A] | 800 |
電圧 [V] | 50 |
ガス流量[l/min]アルゴン | 50 |
ヘリウム | 22 |
キャリア | 12 |
溶射距離 [mm] | 100 |
材料吐出量 [g/min] | 14.5 |
3. 実験結果と考察
図2は引張り破断荷重から導いた破断強度を示し,図3,4は試験片の破断断面を示す SEM 写真である.溶射した試験片の破断面を見ると斑に灰色-白色で,この破断断面を観察すると一部のアンダーコート凹凸の凸部を除いて粒子径16-44μmのアンダーコート上の約60μm以内,粒子径 22-53μm の方で約 50μm 以内の位置にはホワイトアルミナが付いていることがわかった.接着した試験片の破断面には白色の中にわずかに灰色の斑点が見えるが,破断断面を観察してもホワイトアルミナの中に斑点状のものは確認できなかった.これらから引張り破断位置のほとんどはアンダーコートとトップコートの境界面から約 60μm 以内のトップコート内であると考えられるから,図 2 はアンダーコートとトップコートの密着力というよりはトップコートの強度を示しているものと思われる.しかしトップコートの材料や溶射条件は同じであるのに対して,アンダーコートが違うことによって平均で 4.6MPa 程トップコートの強度に差が生じていることになる.溶射した両者の試験片破断面を見比べるとアンダーコート粒子径 16-44μmの方がホワイトアルミナが厚くまとまって付いている部分が多い.破断の仕方が異なるようで,これに起因していると思われるが破断のメカニズムに関しては不明で今後の課題である.
4. 結論
今回の実験では,破断面の位置がアンダーコートとトップコートの境界面ではなかったため,この破断強度とアンダーコートの表面粗さを直接結び付けることはできない.アンダーコート-トップコート間の密着力とアンダーコートの表面粗さの関係を解明できなかったわけだが,アンダーコートの違いによってトップコートの破断強度に差が生じることがわかった.現在はトップコートにメタルを用いた場合の,アンダーコートとして等間隔な3種類程度の面粗さを持ち,トップコート以上の皮膜強度と試験片との密着力を持つアンダーコート材とその溶射条件を探っており,密着力に関して今後さらに実験を進めていきたいと考えている.
参考文献
1. H.Fukanuma, R.Xie, N.Ohno, Y.Fujiwara, and S.Kuroda, Characterization of roughened substrate surface on bond strength of thermal spray deposits, ITSC2002 Proceeding p312-317